トレーナーへの道 第6回

2009年04月21日 13:47日

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週4日の定期的鍼治療を受けてくれたダーレン・ドライフォート投手

皆さん!暑い日本の夏をどう乗り越えていますか?私は5年振りに日本の暑い夏を体験して少々ゲンナリしているところです。この暑さを思うと「カリフォルニアの夏がとても過ごし易い気候だったんだな~」と改めて感じることができます。(この原稿がアップされる頃にはもうこの暑さも少しはましになっているとは思いますが、現在思いっきり暑い中で原稿を書いているところです)

ところで、今回はアスレティックトレーナーMLB・鍼治療編後半ということですが・・・ 前回はメジャーリーグの中で鍼治療を取り入れ始めたこととその中での失敗などを含めてお話させてもらいました。ということで、今回はその後ドジャースの治療の中で‘鍼治療’というものがどのように使われ進化していったか?ということをお話しようと思います。

前回お話したように、‘鍼治療’を施す際にはドクター・ヘッドトレーナー・GM・監督に許可をもらってから行うというスタイルが確立されましたが、これも実を言うと2年目の頃にはかなり規制緩和され治療の中で‘鍼‘が必要と判断したらすぐにヘッドトレーナーに申し出ればゴーサインをもらえるようになったんです。また逆に、ヘッドトレーナーから「この選手の症状は鍼治療が有効だと思うからトライしてみてくれ!」と頼まれるケースも多くなりました。

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肩痛から鍼治療後に復帰したベテラン、アンディアシュビー投手

その背景にはもちろん‘私の努力’(一応言わせて下さい)もありましたが、ヘッドトレーナー自ら‘鍼治療’を良く勉強してくれて‘経絡治療’‘経穴治療’というものを理解しドクターたちを説得してくれたということがあります。実際に鍼を用いて治療することができるのは私一人でしたが、ヘッドトレーナーとアシスタントはペンシル型の鋭利な電極から発する低周波治療器を購入しそれを用いてACUPUNCTURE TREATMENTを行うようになって行きました。

その治療器の写真がないのでお見せできないのが残念ですが「ACU-STIM」という治療器で鋭利な鍼状の先端から低周波を流すことで‘鍼治療のひびき’に似た効果を出すことができるなかなかの優れものでした。しかもこの治療方法も経穴であり経絡であるという完全に東洋医療を取り入れたものだったので、行き着くところは「デニス!ツボの場所を教えてくれ!」という状況が毎日のように続いていったのです。

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鍼には抵抗がありACU-STIMならOKということでマッサージとACU-STIM合わせて約2時間の治療を毎日のように施したベテランでありスーパースターのケビン・ブラウン投手

ここで言う‘ツボ’とは‘トリガーポイント’という解釈になってしまいますが、今まで東洋療法に馴染みの薄い米国人にとっては‘トリガーポイント’で理解してもらった方がわかり易く受け入れ易かったのかもしれません。 しかし、このACU-STIMがあることで選手や他のスタッフたちが鍼治療に興味を持ち始めたということは確かです。最初から鍼治療を受け入れられない選手にはこのACU-STIMを使って擬似的な鍼治療体験をしてもらい、有る程度慣れてきたら本格的に鍼治療に入るといったケースもありました。まあ、あの手この手を使って色々試してみたりしているわけです!

他に面白いケースとしては、選手の家族同士からの情報交換で‘鍼治療’が有効だということを聞いてトライした選手もいました。メジャーリーグでは選手の家族同士の付き合いも大事にしていますから、ある時石井選手の奥様が腰痛に悩む選手の奥様から相談を受けて「だったら鍼が良いよ!」と薦めてくれたそうで・・・

翌日、その選手が「おいデニス!石井の奥さんから聞いたけど、俺の腰痛には鍼治療が効果的だって本当か???」とやって来てくれたわけです。その選手はリリーフ投手で毎日試合に投げる準備をしているので、「じゃあ今日の試合後に少し鍼をやってみよう」ということになり試合後に初めての鍼治療を行ったという珍しいケースもありました。

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石井婦人からの勧めで鍼治療を行ったトム・マーティン投手

逆に、鍼治療を経験した選手からの評判を聞きつけ「じゃあ俺も鍼治療をやってもらいたい」ということでトライしたのですが、やはり鍼独特の‘ひびき’が好きになれずに「やっぱり俺はマッサージだけでいいや」という選手がいたのも事実です。

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鍼のひびきが合わず鍼治療を受けなくなったフォアン・エンカナシオン選手

こんな状況が続いていったわけですが、それでも確実に‘ドジャース’というチーム内では東洋医学が受け入れられていったということは間違いありません!現在では私の後釜に座ってもらい頑張ってくれている‘元阪神タイガース’トレーナーの谷君がこの東洋療法を引き継いでくれていますが、ドジャースでは日本の治療スタイルというものが無くてはならない存在にまで発展してくれているということに関して我々日本人としては誇りに思って良いのではないでしょうか!

このようにして、ドジャースでは東洋医学‘鍼治療’というものが普通に行われるトリートメントの一つに加えられて現在も継続されています。そして、このようやく切り開かれた道をもっと太く長くして行けるのはこれから東洋医学を身につけ実践していける力を持つことができる皆さんなのかもしれませんよ!

広報室
湘南医療福祉専門学校