トレーナーの現場から 第11回

2009年04月21日 15:22日

いつの間にか、08年を迎えてしまいました。月日が流れるのはとても早いですよね。我々トレーナーの仕事も本来は、時間に追われてはいけないことだと思うのですがいつも時間に追われているような気がします。

チームでのトレーナー活動においても、試合に勝つために最善・最良のサポートを行うことがトレーナーの仕事になるわけですが、試合に合わせるというテーマがある以上これもまた時間に追われることとなってしまうのです。

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そんな忙しさがあるプロ野球・メジャーリーグの世界ですが、選手たちにとってコンディショニング以上?に大切にしていることがあるんです。今日は、そんな中のひとつである「ジンクス」「縁起担ぎ」についてのお話をしてみようと思います。

どんなスポーツでもそうだと思いますが、野球の世界では特に「勝つための縁起担ぎ」ということに異常と言えるくらいこだわっているように思われます。ヤクルト時代に有名な話となったのは、野村監督(現楽天監督)が日本シリーズ中ずっと「ピンクのパンツ」をはき続けたということです。そしてその成果?が実り「日本一」を達成したのです。

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このような一般的・常識的に見たら「そんなバカな」というようなことに対してでも「真面目に・真剣に取り組む」のが野球界というより勝負の世界なんですね!他にも、野村監督のグッドラックとしてはヤクルトクラブハウス内にあるトイレで用をたす時に「いつも同じ場所しか使わない」ということや「試合前に大きい用をたす選手を見かけるとその日の試合には使わない」などといったこともありました。

話せば切りが無いくらいたくさんあります。そんな縁起担ぎも選手だけに止まらず、我々トレーナーにも大きく影響を及ぼします。ヤクルトの場合だと、当日のベンチに入るトレーナーは一人になりますがこれも「その日の試合に勝てば明日も続けてベンチ入り、負けると交代」というのが普通に行われていました。また試合前に行うストレッチや簡単なケアも「担当した選手が活躍すれば明日も同じトレーナー同じ選手の組み合わせ」しかし、「活躍できないと交代」という感じです。

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仕事的にはあまり良いこととは言えませんが、精神的ストレスを少しでも良い方向に導こうとするという部分においては必要なことなのかも知れません。我々トレーナーもそのことを十二分に理解しているので、選手と同じ気持ちになってそのような対応をしていました。また、出た結果が悪く翌日担当が変わるということに対しても「あくまで選手のストレス緩和」が目的ですから、後で笑い話にすることでさらに「精神的リラックス」を与えることができたように思います。

そんな縁起担ぎはアメリカにおいても同様でした!というかさらにひどかったように思います。ドジャースのトレーナーの試合用ユニフォームはポロシャツと綿パンが基本ですが、ポロシャツのカラーが5~6色ありパンツも2色のロングパンツとショートパンツに分かれています。この組み合わせを決めるのが私の仕事の一つでしたが、日本同様に「勝てば同じ組み合わせ、負けると違う組み合わせ」ということになっていました。

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しかし、負けた時の「ブーイング」は激しいものがありましたよ!他にもベンチに用意するドリンクは水とスポーツドリンクですが、このスポーツドリンクも2つの味があり「勝てば同じ味、負けるともう一方の味」が定番なのですが、あまりに負け続けると「水とスポーツドリンクを置く位置が入れ替わります」また、試合中に食べる「ひまわりの種も何種類かの味を変えてみたり」と本当にくだらないと思うことを真剣に行ってました。

私の中で「それは行きすぎだろ!」と思った事件は、遠征中に起こりました。アリゾナでの遠征中でしたが、当時アリゾナ・ダイヤモンドバックスはナショナルリーグ西地区を代表する強敵でした。ドジャースも同じ地区なので対戦は多く、しかも投手の二本柱となる「ランディ・ジョンソンとカート・シリング」が健在でしたからそう簡単には勝てないのです。

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その第一戦の日「私はとてもお腹が空いていたので、クラブハウスにあるホットドックを練習前に3つ食べました」それをヘッドトレーナーが見ていたわけですが、その日のダイヤモンドバックスは4~5番手クラスの投手が先発でしたからドジャースは快勝したわけです。翌日・・・クラブハウスで練習前の軽食を摂ろうとするとヘッドトレーナーがやって来て「そう言えばお前は昨日ホットドックを3つ食べてたな、そして試合に勝ったから今日も3つ食べろ!」ということになってしまったのです。

私は「いや、昨日はお腹空いてたから食べたけど今日は食べたくない」と言ったのですがヘッドトレーナー曰く「昨日3つ食べて勝ったからそれはグッドラックだ!だから今日も食べろ!」ということになってしまい結局食べさせられてしまったのです。そして運が良いのか悪いのか?その日の試合にも快勝してしまいました。嫌な予感は続きます・・・

さらにこのアリゾナ遠征最終日、相手の先発は「ランディ・ジョンソン」別名「ビックユニット」です。試合前のクラブハウスでは、ヘッドトレーナーが嬉しそうな顔をして私に近づいてきます。そして「今日は、ビックユニットが先発だ!今日もホットドック食べないとな!」さらに「今日は相手も強力だからホットドックも倍だな!」思わず私は「Oh~No~」しかし、ヘッドの目は真剣です。結局その日ホットドック6つ食べました・・・でもその甲斐あってランディを撃破ドジャースはアリゾナ遠征3連勝で終えたのです。

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今となっては笑い話ですが、こんな馬鹿げたことを毎日毎日繰り返しいたわけです。冷静になって考えればそんなことで試合に勝てるなら苦労はしないのですが、でもプロスポーツの勝負の世界では「結構大事」なことなのかも知れません。

トレーナーとして、医学的な知識や技術をしっかりと学んで身に付けておかなくてはなりませんが、こういう理不尽なことにも柔軟に対応できる術も身につける必要があるようです。後、どんな状況・環境にも耐えられる胃袋も・・・

広報室
湘南医療福祉専門学校