湘南医療福祉専門学校

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深澤先生のブログ「東洋医学とスポーツ#6」

今回は真面目な話から逸脱して(いつもですが・・・)鍼治療に関するこぼれ話をご紹介しようかと思います。
私が経験してきた日本プロ野球界・メジャーリーグの現場で実際にあった笑い話?(選手にはもうしわけありませんが)をいくつかお話させていただきます。

日本のプロ野球選手の中にも「鍼嫌い」な選手は存在します。大きくゴツイ身体をしている選手なのに、あんなに細い鍼に恐怖を抱くそうです。そんな選手を説得して鍼治療を施すのですが、最初は説得に応じ大人しく鍼治療にトライしてくれます。

しかし、もともと持っている「鍼治療の恐怖」はそう簡単にぬぐえないのでしょう。
ある選手の腰痛が長引いていたので「鍼治療」を説得して行っていたところ、鍼独特の「響き」に驚いたのか腰部に鍼を刺したままベッドから逃走してしまったのです・・・ただでさえ痛みに弱く恐怖感が強かったので、こちらもそれを配慮しながら切皮は慎重に、刺入も浅く行ったのですがそれでも耐えられなかったようです。

そして、鍼を腰部に残したまま逃走・・・さらに痛かったと思います・・・笑ってはいけないけど笑ってしまいました。ごめんなさい・・・その後、この選手はもう一度鍼治療にトライしてくれたので、今度は実のところ鍼を刺さず打つ振りだけして恐怖と痛みを取り除くことから始めました。

鍼管だけ当てて切皮の振動だけ与え、あとは指で腰部に触れて打つ振りだけしました。それでも「鍼治療の効果」は多少あったようです。
もちろん、これを継続して4~5回目からは普通に行いましたが・・・

メジャーリーグでは「鍼治療」を受け入れてもらうのに時間はかかりました。やはり西洋医学が浸透している米国で東洋医学を受け入れてもらうまでには苦労が絶えませんでした。
これは私のミスでもあるのですが、その日先発予定のドミニカ人選手が前夜「寝違い」を起こしてしまい「首が痛い」という訴え・・・そして、今日の登板も回避したくない・・・と言うので・・・

私は日本での経験から自身で勝手に判断して物理療法とマッサージを施した後に「円皮鍼」を使用し緊張のでている頚部・肩甲骨周囲に「円皮鍼」を貼って試合に出場させたのです。
結果・・・寝違いの症状は軽減し登板可能にはなったのですが、その日に限ってその選手は絶不調・・・通常は軟投派の投手で球数も少なく防御率も2点台と良い投手なのですが、この日制球は定まらず3イニングス投げ5失点と散々な内容・・・
これだけなら、特に問題はないのですがこの日のテレビ中継でカメラが目ざとく「頚部から見える円皮鍼をズームアップ」そしてご丁寧に解説者がこの円皮鍼に注目して、この投手の今日の不調の原因に結び付けられてしまいました。

選手は決してこの日の不調を円皮鍼のせいにはしませんでしたが、テレビで中継されたものを(ESPNという全米に放送されているスポーツ専門チャンネルです)チームのGMとドクターが見てしまい、試合後私は監督室に呼ばれ「お前は一体何をしたんだ?」と追及されてしまった苦い経験があります。

今では懐かしい笑い話ですが、当時はこれをきっかけに私の鍼治療に対する制限ができてしまったのです。しかし、これが元で鍼治療を公認させる良い機会にもなりました。

そんな中での笑ってはいけない笑い話ですが、ある日世界の盗塁記録保持者である「リッキー・ヘンダーソン」が突然「ヘイ!ジャパニーズガイ!お前は鍼治療できるらしいな?」と私のところにやってきたのです。
ちなみにリッキーは絶対に人の名前を覚えません・・・チームのレギュラー選手でさえ覚えないのです・・・まあどうでも良いことですが。

私は「鍼治療を受けたことがあるんだね」と聞き返すと「いや、ないよ」って、なんだか良くわからない人です。
まあ選手が希望しているのだから「じゃあ鍼治療するよ。どこか痛みがあるの?」リッキーは「肩が痛いんだ」というので、肩関節周囲のチェックをすると上腕二頭筋長頭炎の疑いあり。そこで私は二頭筋長頭の付着部を狙って鍼を打ちました。

すると「ちょっと待ってくれ!タオルをくれるか?」私は???とにかくタオルを渡しました。
リッキーはタオルを受け取るといきなり口に入れてタオルを噛み喰いしばったのです。私は笑ってしまいました。
どうやら鍼の響きが辛かったらしく、響きによる痛みに耐えるためにタオルで喰いしばったようです・・・

その後も私はお構いなしに鍼を打ち続けました。リッキーは喰いしばり、汗を垂らして施術に耐えてくれていました。
笑ってしまいましたが、これに耐えてでも痛みを取りたいと願うリッキーの気持ちに応えられるように私も一生懸命気持ちを入れて鍼を打ったのです。
その後2~3回の鍼治療で肩痛は軽減しボールを投げても痛まなくなったそうです。

本来相手に恐怖心がある場合鍼治療を施してもあまり効果は期待できません。
しかし、治りたいと強く思う心が彼の症状を軽減させたのでしょう。リッキーの想いはそれだけ強かったのです。でも笑っちゃいました。トレーナーとして施術者として最低ですが、この光景だけは今でも笑ってしまいます。
面白い話かは別として、鍼治療を行う際にはこのようなこともあるということを知って欲しいと思い今回はこぼれ話をさせてもらいました。
それではまた!
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